65歳を過ぎてから仕事を求める時、多くの人が直面する現実がある。それは、若い頃と同じ条件や希望に合う仕事が、ほとんど見つからないという事実だ。長年培ってきたキャリアや経験を活かそうとしても、年齢の壁に阻まれることは珍しくない。しかし、この現実を悲観する必要はない。なぜなら、65歳からの仕事探しは、キャリアの延長ではなく、「生きがい」を見つけるための新しい出発点だからだ。

この年代の仕事探しで最も重要なのは、「何をするか」ではなく、「なぜ働くのか」という自分なりの目的を持つことである。目的が定まれば、仕事探しの視点は大きく変わり、これまで気づかなかった新しい選択肢が見えてくる。

なぜ「目的」を持つことが重要なのか

多くのシニアが定年を迎えた後、社会との接点を失い、生活のリズムが崩れてしまう。長年続いた通勤生活が終わり、自宅で過ごす時間が増えることで、孤独や喪失感を感じる人も少なくない。気分転換に旅行に出かけても、それは一時的なものに過ぎない。

この状況を打開するために必要なのが、具体的な目的を持った活動、すなわち「仕事」なのだ。単に収入を得るためだけではない、もっと深い意味での「働く理由」を見つけることが、充実したセカンドキャリアを築く鍵となる。

目的を明確にすることで、仕事は単なる労働ではなく、自身の人生を豊かにする活動へと変わる。そして、その目的は人それぞれで構わない。健康維持、社会貢献、収入の補填、新しい挑戦、孤独の解消。どの目的も、等しく価値がある。

目的別に見つける仕事の具体的なヒント

65歳で再雇用契約が切れて自分で新しい仕事場を探すことになる。仕事を失うと社会との接点とつながりも失う。この損失感は、65歳で仕事を失った人でないとわからない。長年の通勤生活のリズムがなくなり、自宅でブラブラする生活に耐えられなくなる。気分転換で一人旅や夫婦旅行をしても一時的でしかない。

そんな状況にいる65歳のシニア男性は、社会に繋がれる仕事を目的として探せば良い。社会と繋がる仕事は沢山ある。通勤生活を復活させたければ、通勤生活が生まれる仕事を探せば良い。具体的な働く目的がはっきり見えてくると今まで見えていなかった仕事が足元に転がっているのに気がつく。

週5日間社会に繋がりたいのか、週2日間繋がりたいかで探せる仕事の数も変わってくる。どのような働き方を自分が求めているのかをまずはっきりさせることである。正社員的な働き方を忘れて、今の自分と10年先の自分のニーズを満たせる仕事を探す。

週3日間午前中だけの仕事ならば、アルバイトになる。アルバイトは需要がある限り年齢に関係なく仕事さえ問題なければ続けられる。どんな仕事も現実の社会とつながっている。

健康維持が目的の場合:体を動かし、健康寿命を延ばす

「健康寿命を延ばしたい」「体を動かす習慣をつけたい」という目的を持つなら、それを直接達成できる仕事を探すべきだ。フィットネスクラブに通うのも良いが、仕事として取り組めば、収入も得られ、一石二鳥である。

  • スーパーやショッピングモールのカート回収:この仕事は、一人で黙々と作業できるため、人間関係に悩むことが少ない。広大な敷地を歩き回り、重いカートを動かすことで、自然と足腰が鍛えられる。日頃の運動不足解消にもなり、健康維持には最適な仕事と言える。
  • 物流倉庫での仕分け・ピッキング:体力を使う仕事だが、体を動かすことが好きな人には向いている。広い倉庫内を歩き回り、商品を仕分けたり、運んだりする作業は、良い運動になる。
  • 清掃業(ビル、公園、商業施設など):清掃の仕事は、年齢に関係なく需要がある。体を動かしながら、社会の役に立っているという実感も得られる。

 

社会とのつながりが目的の場合:孤立を防ぎ、居場所を見つける

「仕事を通じて、社会とのつながりを取り戻したい」「新しい人間関係を築きたい」という目的を持つなら、人と関わる機会が多い仕事や活動を探すべきだ。

  • シルバー人材センターでの仕事:様々な仕事を紹介してくれるだけでなく、センターに集まる人たちとの交流も生まれる。地域社会に貢献しながら、新しい友人や仲間を作るきっかけになる。
  • ボランティア活動:仕事として賃金を得ることにこだわらないなら、ボランティアも素晴らしい選択肢だ。子どもたちの見守り、地域の清掃、NPO団体の活動支援など、多岐にわたる。共通の目的を持った仲間と活動することで、深い絆が生まれる。
  • 地域活動への参加:町内会や自治会の役員、地域イベントの運営など、地域に根差した活動も有効だ。日頃から顔を合わせる機会が増え、自然とコミュニティの一員となれる。

 

収入の補填が目的の場合:長期安定を最優先に

「年金を補う収入をできるだけ長く得たい」という目的を持つなら、時給の金額だけで仕事を探すのは危険だ。それよりも、年齢に関係なく安定して働き続けられるか、需要が今後も続くか、という視点で仕事を選ぶべきである。

  • 介護・福祉分野:高齢化が進む日本において、介護職の需要は増え続ける一方だ。資格を取得すれば、専門的な仕事に就くこともできる。
  • マンションやビルの警備員・清掃員:景気に左右されにくく、安定した需要がある。特別なスキルがなくても始められる仕事が多い。
  • 飲食業:接客や調理補助など、多岐にわたる仕事がある。人と接することが好きな人には向いている。
  • 農業:地方では、経験者を歓迎する農家が多い。体力は必要だが、自然の中で働くことに喜びを見出す人もいる。

 

新しい挑戦が目的の場合:起業の疑似体験をする

「まだ現役でいたい」「新しいことに挑戦したい」という意欲があるなら、起業という道も視野に入る。しかし、65歳からの起業は失敗が許されない。そこで、いきなり独立するのではなく、起業の準備期間として働くことを目的にすると良い。

  • ベンチャー企業でのインターン:設立間もないベンチャー企業は、人手が足りていないことが多い。賃金は期待できないかもしれないが、3ヶ月から半年程度のインターンとして働くことで、起業家が直面する課題や、ビジネスの立ち上げ方を肌で感じることができる。これはお金には代えられない貴重な経験となる。
  • 個人事業主の手伝い:インターネットやSNSを活用してビジネスを展開している個人事業主は多い。そのアシスタントとして、商品の発送、顧客対応、ブログ記事の執筆などを手伝うことで、ビジネスの裏側を学ぶことができる。

 

孤独・孤立から逃れたいのが目的の場合:人とのつながりを求める

孤独や孤立を感じているなら、「人との接点」を第一に仕事を探すべきだ。

  • 図書館の読書会:共通の趣味を持つ人が集まる場所は、自然な形で人間関係が築ける。読書会は、特定のテーマについて語り合うため、会話のきっかけに困らない。
  • 趣味のサークルや教室:囲碁、将棋、絵画、陶芸など、同じ趣味を持つ仲間を見つけるのは、孤独を解消する最も確実な方法の一つだ。
  • シニア向けのコミュニティスペース:最近では、シニア向けの交流スペースが増えている。カフェやイベントが開催され、気軽に足を運ぶことができる。

 

仕事探しの視点を変える

65歳からの仕事探しは、これまでの仕事の延長線上で考えるのをやめ、自分が本当に求めているものは何かを深く掘り下げることが出発点となる。雇用形態にこだわる必要はない。正社員、パートタイム、アルバイト、さらにはボランティアや起業など、多様な選択肢がある。

大切なのは、「今の自分」と「10年先の自分」のニーズを満たせるかどうかだ。漠然と不安を抱えるのではなく、「健康維持のため、週3日午前中だけ働く」「社会とのつながりのため、ボランティア活動を始める」といった具体的な目標を設定することで、仕事探しはよりスムーズに進む。

 

結論:具体的な目的が、新しい扉を開く

65歳という年齢は、人生の後半戦をどう生きるか、改めて考え直す時期だ。仕事は、単なる収入源ではなく、生きがいを見つけ、人生を豊かにするための手段となり得る。

もし、今仕事探しに悩んでいるなら、まずは紙に「なぜ働きたいのか」という理由を書き出してみてほしい。
「小遣い稼ぎ」「暇つぶし」といった漠然とした理由から、より具体的な「健康を維持したい」「新しい友人がほしい」といった目的へと掘り下げていく。

その目的がはっきり見えた時、これまで見えなかった仕事の選択肢が、目の前に広がっていることに気づくだろう。そして、その仕事こそが、あなたの人生を再び輝かせるきっかけとなるに違いない。